名古屋地方裁判所 昭和42年(ワ)3177号 判決 1969年6月11日
原告
木村庄次郎
被告
川角強
ほか一名
主文
一、被告らは、各自原告に対し四〇万円とこれに対する昭和四二年一一月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告、その余を被告ら各自の各負担とする。
四、この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一、求める裁判
一、原告
「被告らは各自原告に対し一二九万二六六円とこれに対する昭和四二年一一月一六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。」
との判決と仮執行の宣言。
二、被告ら、
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決。
第二、原告の請求原因
一、事故の発生
昭和四一年一〇月一六日午後三時五分頃、名古屋市中村区太閣通四丁目六九番地先交差点で原告の運転する原動機付自転車(以下被害車という。)と被告川角五百子の運転する普通貨物自動車(以下加害車という。)が衝突し、原告は路上に転倒して左踵骨圧迫骨折、右胸部挫傷、両膝部打撲症兼挫創、左足背部皮下血腫兼挫創、右中指裂創、右環指爪床部挫創の傷害を受けた。
二、被告らの責任
(一) 被告川角五百子
本件事故は、被告五百子が交差点を左折する際、後続車の有無等左後方の安全を確認して進行すべき注意義務を怠り、その未確認のまま左折を開始した過失により発生したものであるから、右被告は民法七〇九条に基づく不法行為責任がある。
(二) 被告川角強
被告強は、加害車を所有して自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づく運行供用者責任がある。
三、損害
(一) 治療費等 三八万四、八五七円
(イ) はやし外科病院 二四万二、八七〇円
(ロ) 森接骨院 九万四、七五〇円
(ハ) 諸岡鍼灸病院 三、二〇〇円
(ニ) 名鉄病院 四万四、〇三七円
(二) 得べかりし利益 六〇万五、四〇九円
原告は菓子製造業を営むもので年間五八万円の収入があつたが、本件事故により昭和四一年一〇月一六日から翌四二年一〇月三一日まで休業を余儀なくされ、その間六〇万五、四〇九円の収入を失つた。
(三) 慰藉料 八〇万円
傷害の程度、治療経過等に照らし慰藉料は八〇万円が相当である。
(四) 自賠償保険金の受領 五〇万円
四、以上原告の損害は差引合計一二九万二六六円となるので右金員とこれに対する本件事故発生後の昭和四二年一一月一六日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三、被告らの答弁および主張
一、請求原因第一項の事実中、受傷の点は不知、その余の事実は認める。
二、同第二項の事実は認める。
三、同第三項の事実は不知。
四、同第四項は争う。
五、本件事故の発生について原告にも重大なる過失が存する。被告五百子は、本件事故現場交差点で、信号が赤であつたため、二車線のうち外側の車線に一旦停車して左折信号に点燈していたところ、信号が青となつたので先行車二台に引き続いて前進左折した瞬間、後方から突進してきた被害車と加害車の左バックミラーとが接触、被害車が転倒したものである。従つて、本件事故は主として原告の前方不注視という過失によつて発生したもので、損害額の算定については、右原告の過失が斟酌されるべきである。
第四、証拠〔略〕
理由
一、原告主張の日時、場所において、原告の運転する被害車と被告五百子運転の加害車とが衝突し、原告が路上に転倒したことは当事者間に争いがない。
二、原告の受傷の程度
〔証拠略〕によれば、原告が本件事故により原告主張の傷害を受けて、はやし外科病院で昭和四一年一〇月一六日より同年一二月二七日まで入院加療を、同月二八日より同四二年二月一七日まで通院加療を、森接骨院で同月一三日から同年四月二五日まで通院加療を、諸岡鍼灸病院で同年二月初め頃から八回にわたりマッサージの治療を、名鉄病院下呂分院で同年五月一日から同年八月二八日まで入院加療を各受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
三、被告らの責任
本件事故が原告主張のような被告五百子の過失により発生したものであること、被告強が加害車を所有して自己のために運行の用に供する者であることは当事者間に争いがない。
従つて、被告五百子は不法行為者として、被告強は運行供用者として本件事故による後記損害を賠償する義務がある。
四、そこで本件事故によつて生じた損害について検討する。
(一) 治療費等 三八万四、八五七円
〔証拠略〕によると、原告は次の各病院において前記認定のような期間中入院および通院による治療を受けて治療費、雑費等として次の各金員を支出したことが認められるので同額の損害をこうむつたものと認める。
(イ) はやし外科病院 二四万二、八七〇円
(ロ) 森接骨院 九万四、七五〇円
(ハ) 諸岡鍼灸病院(一回四〇〇円で八回分) 三、二〇〇円
(ニ) 名鉄病院 四万四、〇三七円
(二) 得べかりし利益 五八万円
〔証拠略〕によると、原告は一人で半生菓子製造販売を営み、昭和四〇年度における同人の収入は五八万円であることが認められるので毎年右金額程度の収入があつたものと推認しうる。そして本件事故により昭和四一年一〇月一六日から翌昭和四二年一〇月末頃まで休業したことが認められるところ、前記通院、入院の期間等を考慮すると、原告の得べかりし利益の喪失としては、その一年間分を認めるを相当とするから原告は五八万円の損害をこうむつたものと認める。
以上(一)、(二)の合計九六万四、八五七円
(三) ところで〔証拠略〕によると、原告は加害車の左後方より本件事故現場の交差点を直進しようとしていたものであるが、原動機付自転車の運転者としては前方を注視しその安全を確認してから進行すべき注意義務があるものというべきところ、これを怠り加害車が左折の合図をして前進左折せんとしていることに気づかず漫然右交差点に進入して本件事故に至つたことが認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は措信しえず、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。すると本件事故発生については原告の過失もその基因となつていることが認められる。従つて本件事故により生じた結果については原告もその責任を負うべきであるが、原告の右過失の程度と被告五百子の前記争いのない義務違反の程度とを対比すると前記損害のうち被告らの負担すべき額は五〇万円が相当であると認める。
(四) 慰藉料
前記認定のような本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位、程度、治療経過、その他諸般の事情を考え合わせると、原告の精神的苦痛に対する慰藉料としては四〇万円をもつて相当と認める。
以上(三)、(四)の合計九〇万円
(五) 保険金の充当
原告は五〇万円の自賠責保険金を受領したことを自認するのでこれを右損害金に充当すると結局残額は四〇万円となる。
五、結論
以上認定説示のとおりであるから、原告の本訴請求は被告らに対し各自四〇万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和四二年一一月一六日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋一之)